「魔女狩り」(森島恒雄)

63-64ページより引用。

 そこで、魔女裁判を異端審問として正当化することが、いいかえれば、「魔女」が「異端者」であることの証明が、教会当局にとって必要、かつ重要な課題となった。この課題を解決する役割を引受け、それをもっとも見事に果したのが『魔女の槌』であった。同書がその冒頭においてこの問題を取り上げたのはもっともなことであった。この新書版に邦訳するとすれば一〇〇〇頁を越えるであろう『魔女の槌』の三分の一をそれに当てた第一部の長々しい論証によって確立された結論は、「魔女は悪魔と盟約を結んで悪魔に臣従し、その代償として悪魔の魔力を与えられ、超自然的な妖術を行なうことができる」ということだった。
 ここにおいて魔女は「明らかな異端を伴なう」どころか、「異端者の中でも極悪の異端者」となった。「他の異端には悪魔との結託ということはない。魔女の異端の忌まわしさは、この悪魔と人間との汚らわしい関係にある。」魔女は、魔女が行なった刑事犯的な「行為」のためではなく、その行為以前の「悪魔との結託」という、キリスト教的な「魂の堕落」のために裁かれることになるのである。だから、魔力によってたとえ善行を行なった「白い魔女」といえども、その行為以前の悪魔との契約によって「異端者」であり、焼かれねばならぬ、というのが神学的常識となった。