涼宮ハルヒの憂鬱」の2次創作について。「〜の驚愕」が出るまでに2次創作上で解決されなければならない、「〜の分裂」において谷川流によって提示された問題。だと、僕が思い込んでいること。
エロパロ板とかの中〜長編SSを一通り読んでいれば、言いたいことは通じるんじゃないかなあ、と思います。
書いたのは200801ごろで、2次創作についてあんまりうだうだ言うのはどうなんだろう(商業であれば「プロである以上批判も折込済みのはず」とかいう言い訳は出来るけれど、ネット上のSSではそういうことはいえませんよね)とか思ってはてなの方にアップはしなかったのですが、まぁ具体的な作品について何か言っている訳ではないのでまあいいですよね。
今考えてみると甘い部分もありますがご愛嬌。


最初から。
世界改変能力というのは、勿論2次創作のことです。だからハルヒの2次創作というとまず「涼宮ハルヒがXを望んだ」というかたちでXが起きる、という風にお話が展開することになります。これは色々とスポイルしていて、例えば古キョンSSとかそうじゃないものでいっぱいな気がするのですが、そしてそこにこそ人間の善き部分があって、この問題に回答を与えるときにはそこらへんが重要になってくるような気がするのですが、まぁ、その。ここではまず、「もしXだったとしたら」という形のものを考えてみることにしましょう。一番手っ取り早いのは、再構成モノです。「もしSOS団の性別が丸ごと反対だったら」でもいいですし、「もしSOS団メンバが佐々木、橘、藤原、九曜、キョンだったら」でもいいでしょう。
例えば、マリみてであれば、それは単なるパラレルワールドの話です。勿論、超常的な力によってみたいな説明があってもいいですが、それはその作品世界内での話です。
一方、時間、空間、別の世界に関する能力が出てくるお話においては、特にメタい話の場合は、単なるパラレルワールド、というのはなんだかなぁ、となります。作品内でのルールに回収したくなる、という心の動きが生まれます。
例えばひぐらしなんかだと、みんながいちゃいちゃしている話が大好きな人が多いようで、ある1ループとしてこんな世界もあるんじゃないかみたいな2次創作よりも全部終わった後のヒロインとのいちゃいちゃみたいなのが多い気がするのですが(ひぐらしの2次創作はあんまり見ていないので自信ありません)、多くのループ作品の2次創作では「もしかしたら存在したある1ループ」が基本ですよね。で、ハルヒであれば、このパラレルワールドは世界が改変を受けた結果である、という風になるわけです。


で、ここからが本題なんですけれども。
これは、2次創作の自由性をあらかじめ閉じ込めておく、吐き気のするような作者側の厭らしさ、と思うことも出来ると思うのです(2次創作の自由性を閉じ込めるような厭らしさについて考えることは極めて重要だと思います。最も重要と言ってもいい)。
ループのことを考えてみましょう。ここでいうループは、「エンドレスエイト」でもひぐらしでもいいですが、「ループに迷い込む→何百周もする→ある1周において主人公たちはついにループから脱出する」というものです。
ここでは、最後の1周以外の全てのループは、最後の1周(およびそれ以降の続いていく未来)に従属させられています。それは選び取られなかった可能性であり、未来を持ちません。だから、「あったかもしれない1つのループ」を描くのは、あらかじめ作者によって囲われた世界のなかで、何かをするだけ、とも言えます。何より結末が固定されています。厭らしいです。
ハルヒにおいても事情は同じように見えます。SOS団の男女が反転し、それはハルヒが望んだからだと分かり、長門キョンが頑張って、世界は元に戻る。パラレルワールドは原作世界に従属していて、最終的には秩序が回復する――一般的なアニメの劇場版みたいな。


しかし、ループと世界改変能力には、本質的な違いがあります。
ループは主-従の関係が1階分しかなく、またその関係も固定的です。しかし、世界の改変は何度でも、また何重にでも行われ得るものです。主-従の関係も、何度だってひっくり返ります。
どういうことかといえば、例えばもしかしたら本当のSOS団は「世界を大いに盛り上げる佐々木の団」で、僕たちの読んだ小説に描かれているのは佐々木の望んだパラレルワールドかもしれません。あるいは、その「本当は佐々木が〜」という設定の方が涼宮ハルヒの「普通の女の子になりたい」という願望の生んだものかもしれません。
あるいは、もしかしたら世界改変能力を持っていたのはあなた――この文章を読んでいるあなた、だったのかもしれません。避け得ない悲劇を目撃したあなたが、現実を拒み再構成した世界こそ、今ここの世界なのかもしれません。あなたの体験した出来事は、この世界では「涼宮ハルヒの憂鬱」という書物の形で(少々キャラのアレンジは加えられて)出回っているのかもしれません。
……これをどんどん繰り返していくと流石にSSとして成立しなくなりますが、大事なのは、「原作に従属しているようで、実は原作側が従属しているのかもしれない」という可能性があることです。関係がひっくり返される快感です。ループでは、コレは出来ません。


なので、そういうSSがあったら誰か教えてください。それか、だれか書いてください。
論理的に言って書かれるのが必然だと思うのですが、まだ見たことないです。


全てのパラレルワールドが幸せでありますよう祈ります、と、そういう話もちょっとある。


結論:巡り巡って考えてみると谷川流の最高傑作はハルヒシリーズ。
ハルヒ最終巻の展開は「今、この瞬間、あたし――朝比奈みくるは、キミのことを見ているのです」。